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福岡地方裁判所久留米支部 昭和37年(ヲ)60号 決定 1962年7月04日

申立人 平田ヌイ

右代理人弁護士 諸富伴造

相手方 船津熊吉

主文

本件異議申立を却下する。

申立費用は申立人の負担とする。

理由

第一、異議申立理由の要旨

一、申立人所有の別紙目録記載の不動産につき、福岡法務局松崎出張所昭和三四年七月二八日受付第二、〇六一号をもつて手形取引契約についての債権を担保するためとして、つぎのような根抵当権の設定登記がされている。

根抵当権者―二日市信用組合。債務者―中村岩太郎。債権元本極度額―二〇〇、〇〇〇円。

而して抵当権者二日市信用組合は、当庁に右抵当権の実行を申立て当庁昭和三五年(ケ)第三四号事件として受理されて手続が進行し、昭和三七年二月六日相手方に競落許可決定がなされ、同人は代金を納付したので、同人のため所有権移転登記がなされた。しかして同人の申立により当庁昭和三七年(ヲ)第五二号不動産引渡命令が、昭和三七年五月一七日発せられ、申立人は執行吏黒岩強祐から引渡を命ぜられている。

二、しかしながら申立人は前記物件を担保に供するようなことをしたことは全くない。これは申立人の妹婿である申立外中村岩太郎が申立人の実印を勝手に持出して申立人の同意なしに登記したものである。

三、以上の次第で別紙目録記載の物件上の前記抵当権は無効のものであるから、相手方は競落許可決定があるも所有権を取得しないものである。よつて不動産引渡命令の執行はこれを許さない旨の裁判を求める。

第二、当裁判所の判断

競売法二条一項は、「競買人は競落に因りて競売の目的たる権利を取得す」と規定しているが、これはもとより抵当権設定者からの承継取得であるから、無効の抵当権にもとずく競売手続により競落人はその競落不動産の所有権を取得することはできないものである。

しかし競落不動産の引渡執行は抵当権者の金銭的満足という目的には奉仕せず、これと無関係に競落人が競落の結果売主たる抵当権設定者に対して取得する競売目的物引渡請求権の満足のために展開されるのであるから、競落人と抵当権設定者との関係は基本たる執行関係から分岐して独立の地位に立つものである。従つて抵当権設定者は、競落人が競落許可決定の確定によつて取得した引渡請求権の無効不存在を主張する場合は格別、競売申立の原因たる抵当権が存在しないという抵当権者に対する事由をもつて競落人に主張することができないものである。もしかかる事由を主張することができるものとすると、競落人は所有権を取得したときに限り不動産引渡命令を求めうることになり、かくては執行裁判所は所有権取得の事実の有無を確定するため競売開始前の事情までさかのぼつて調べる必要があるものといわざるをえなくなり、このようなことは、競落人に別に訴を提起しないで、簡易迅速に占有を取得させることを目的とする不動産引渡命令の制度上許されないのである。そして申立人の主張する前記異議の理由は競売申立の原因に存する事由であること、その主張自体により明白である。

従つて申立人の異議申立は他の判断をまつまでもなく失当であること明白であるからこれを却下することとし、申立費用については民訴法八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 白井皓喜)

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